彬は、誰もいない校舎に毎朝六時に出勤し、教室の掃除をする。一時間もすると落ち着き、職員室に戻る。

次に出勤するのは野間で、毎朝七時頃に出勤し校舎内を見回る。各々の教室や廊下の清掃状況を点検し終えると、校長室で一服するのが日課である。

その間、彬は職員室で朝一番に飲むコーヒーの豆を二人分挽き、野間が校長室に戻った瞬間を見計らって、毎朝コーヒーを差し出していた。

「校長先生、コーヒーいかがですか?」

「おおっ、藤井先生、いつも悪いね」

特に野間が求めたわけではないが、いつの間にか、この時間は二人だけの朝の慣習となっていた。

ここで野間から担任の話を切り出されたのである。

「藤井先生、一人も退学させることないように頼むね」と念押しされもした。それが、二、三週間前の出来事である。

彬は、明日から始まる「担任」という初めての経験に少し躊躇していた。

(どのようにクラスを運営すれば良いのだろうか?)

おそらく屋台骨となる明確な方針がないと、担任という重責は全うできないであろう。

設営を終えた体育館を眺めながら彬は、明日に迫った式典のことやクラス運営などについて思いを巡らせていた。

ここ数日、何度も泣き言を言いながらもその都度、自信のない自分の弱い気持ちを打ち消そうと大きく深呼吸した。

入学式を明日に控えても、どうすれば良いか、その答えは浮かんでこなかったが、彬は、とりあえず、クラスを持つ二年間は、どんなことがあっても投げ出さずに担任を全うしようと心に決めた。