漠然としたことを漠然と言っているな、と自分でも思う。しかし、それで正しいのである。人間の意識には、常に自分にせよ、他人にせよ、社会にせよ、あらゆる事象は、漠然としか現れないので、総括的にこうだと言い切ることはできない。だから、人はより明瞭に、それらを知ろうとするなら、個別的な事柄を一つ一つ物語るしかないのである。
さて、始めようか。
「好きなことだけで生きて行く」
近くの本屋の店頭で、このタイトルが目に入り、ドキッとしたのは、2017年、既に私は61歳になっていた。そしてパラパラ立ち読みし、概ね筆者の言うことに納得していたが、自分の人生を顧みて、苦笑せざるを得なかった。
そう、大学の専攻は自分の好きな「フランス文学」を選び、覚悟を決めて大学院まで進んだ筈だったのだが、病気になり、一年ほど病院に入院すると、いきなり弱気になり、簡単に志を捨て、勧められるがままに、あっさり建設会社に入社した。
その建設会社は三年で辞めたのだが、その間苦労人の社長から「好きなことで食べて行ける」などという「甘い考え」を揶揄され続けたので、以来、都内の四谷大塚系の進学教室、予備校、そして39歳から、この歳まで、自分の学習塾と生活の場を変えたものの、その都度、「甘い考え」を排除し、その仕事に徹底していた。
だからフランス語フランス文学をやり直そうなどと思ったことはつゆほどもなかった。恐らく、この間、色々な人に出会ったが、特に自分が塾を始めてから知り合いになった殆どの人は、私が、フランス文学を七年間、病気になるほど勉強したなどと、今だに知らないだろう。……
「好きなことだけで生きて行く」の隣に「考えたら負け」というタイトルの本も並んでいた。実際、私は、好きなことをやるという最初の「浅はかな」選択による挫折以来、今度は実によく考え、慎重な選択をしたつもりで、大概、機会を失うか、人の信頼を失い、結果的に、35年間、面白いように、負け続けた。