桐谷は無意識に望田の携帯に電話していた。

「モッチー、いまどこにいんの?」

望田は2か月前、ナイスホープに転職してきたばかりで、沼津支店は支店長不在だったため、いきなり支店長代行を任されている。

桐谷とは同い年。パソコンがからっきし苦手で、エクセルも使えず、報告書を出すたびにトラブルを起こしていた。そんな望田に、桐谷は一から仕事を教えてあげた。その縁で、望田は桐谷のことを「あにぃ」と呼んでいる。

「あにぃ、いま、駅前っす」

「……沼津駅の?」

「そうっす」

「こんな時間に何してんの?」

「明日の派遣先で、あと1人派遣スタッフが埋まんなくて。電話しても誰もつかまらないんで、駅前に人探しに来たんです」

「駅前に人探し?」

「そうっす。この時間になると、駅前に寝泊まりしてる人たちが出てくるんすよ」

「……浮浪者ってこと?」

「まぁ、そうっすね」

「つかまえて、明日の現場に行かせるの?」

「行かせますよ。一緒に支店戻って、派遣登録してもらって、服だけ作業着を着せれば問題ないっす」

「いや、身分証とかないよな?」

「あにぃ、あるわけないでしょ。でも、しかたがないっす。1日だけの作業なんで」

そのロジックがよくわからなかったが、桐谷は邪魔してはいけないと思い、早々に電話を切った。

(これは完全にアウトだろう……)

桐谷は深く息を吐いた。

次回更新は4月7日(火)、8時の予定です。

 

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