【前回記事を読む】抱き上げられて寝室へ…彼は「泣かないで」と言いながらも、激しく求めてきて…指先で触れられるたび涙が止まらない。
旅館の危機と絆
翌朝、よし子と雅彦は帳場で向き合い、旅館の帳簿を一緒に開いた。
「正直に言うと、このままでは半年持たない」
雅彦が重い口を開いた。年間の売上は右肩下がり。修繕費は膨らむ一方。予約サイトの手数料も負担になっている。
「銀行にも融資を断られた。担保にできるものがもうない」
数字を見てよし子は息を飲んだ。でも、怖がっている場合ではない。
(怖い。でも、今は私がしっかりしなければいけない。一緒に考えると言った。やらなければ)
「雅彦さん。この旅館の1番の魅力は何だと思いますか」
「魅力? ――山奥の古い旅館だぞ。設備だって最新じゃないし」
「それが魅力なんですよ」
よし子はスマートフォンを取り出した。美咲に教えてもらったSNSの使い方を思い出しながら、画面を見せた。
「最近、『昭和レトロ』とか『古民家ステイ』が若い人に人気なの、知ってます? 美咲が教えてくれたんです。都会の人が求めているのは、最新設備じゃない。ここにしかない空気、ここにしかない景色、ここにしかない温かさ。藤乃屋には全部あるじゃないですか」
雅彦は半信半疑の顔をしていた。
「でも、どうやって知ってもらうんだ。広告を出す金もない」
「SNSならお金はかかりません。写真を撮って、文章を書いて、発信するだけです」