節子も協力してくれた。「どうせやるなら、うちの自慢の料理を見せなきゃ」と言って、秘伝の山菜料理のレシピを一部公開した。「全部は教えないわよ。食べに来なさい」という一言を添えて。

(節子さんまで動いてくれた。みんなが、この旅館を守ろうとしてくれている)

11月。紅葉の写真と動画が反響を呼び、週末の予約が満室になる日が出てきた。よし子は嬉しさのあまり、帳場で雅彦と抱き合った。

「信じられない。本当に人が来てくれるんだな」

「言ったでしょう。この旅館の魅力を知ってもらえば」

大輝が撮った「旅館の1日」という動画は10万回再生を超えた。コメント欄には海外からの問い合わせまであった。

12月。ついに単月の売上が前年を上回った。雅彦は帳簿を見ながら、信じられないという顔をしていた。

「よし子さんのおかげだ」

「私1人じゃできませんでした。美咲や大輝くん、節子さん、お義母さん。みんなの力です」

「家族の力、か」

雅彦が噛みしめるように言った。5年間、1人で守ってきた旅館。それが今、家族の手で息を吹き返そうとしている。

(5年間、1人で戦ってきたんだね。もう1人じゃないよ)

その夜、従業員全員で鍋を囲んだ。節子が「まだまだこれからよ」と檄を飛ばし、よし子が「来年はもっと頑張りましょう」と杯を上げた。雅彦は鍋の向こうから、よし子を見つめていた。穏やかな、でも力強い目だった。

よし子は思った。ここが私の居場所だ。この旅館が、この人たちが、私の家族だ。

次回更新は4月13日(日)、21時の予定です。