【前回の記事を読む】「パワハラ」「コンプラ」という言葉すら存在しない時代、“働きすぎ”なんて当たり前。売上しか眼中にない連中ばかりだった。

第一章 カリスマの降臨

〈3〉

桐谷が極端に失敗を恐れるようになったのには、理由がある。

小学校のときだ。ある日、先生に「桐谷君、どちらが正解でしょう?」と聞かれ、自信満々に答えたら、先生に「ブッブー!」と言われて、クラスメイトがドッと笑った。

それ以来、桐谷は失敗するのが怖くなった。

何か発言しようと思っても、他人の目が気になってしかたがない。人前で話すなんてもってのほかだ。緊張で声が震える。

中学生の頃はトイレで隣に人がいるだけで、小便ができずに膀胱炎になったこともある。そのくらい人目が気になってしかたがないのだ。

そんな桐谷も、どういうわけか、

(いつかは何者かになりたい)

という思いだけは強かった。

恐らく10歳頃の記憶が影響している。

「悟、ちょっと来なさい」

祖父の部屋に呼ばれた桐谷は、いつものように戦争の話を聞いた。祖父は関東陸軍の中佐だった。

お国のために命を懸けて戦った祖父の姿に、桐谷の胸は熱くなった。

(一生に一回の人生、僕もいつかは何かに人生を投じるような生き方をしたい!)

幼心にそう感じたことが、「いつかは何者かになりたい」と思う原点だったのかもしれない。

就職活動中、

(失敗は怖い。でも何者かになるには、失敗を恐れずチャレンジしなければならない……)

そんな葛藤がずっと渦巻く中で、ナイスホープという会社に出会った。

そして、

「桐谷君、きっとうちの会社受かるよ」

あの竜崎のたったひと言が、桐谷を動かす引き金になった。

桐谷はまるで憑(つ)き物が落ちたかのように、ナイスホープの一次面接、二次面接をトントン拍子で通過。そして役員との最終面接も無事に合格。

2000年7月、桐谷は晴れてナイスホープの内定を獲得した。