2000年当時、まだ「パワハラ」という言葉も、「コンプラ」という概念もない時代。ベンチャー企業では、社員が働きすぎて体を壊して入院するなんて当たり前の光景だった。
桐谷は3人の話を聞いて、
(この人たちは、本当に売上を上げることしか考えていない)
と感じたが、その異様さに怯えながら、どこかで惹かれる部分があった。
この3人が底抜けに明るいからだ。言葉に熱がこもっている。何かを成し遂げるためにナイスホープに集まっているように感じた。
桐谷は念のため、一つ聞いてみた。
「ナイスホープに入社する秘訣はなんですか?」
「そうだな……努力」
竜崎が答えた。
「あと根性」
夏目が答えた。
「それに義理人情」
奈良原も答えた。
「昭和じゃね! アッハッハ!」
3人が一斉に笑った。
桐谷もつられて笑ってしまった。
「桐谷君、きっとうちの会社受かるよ」
「え?」
竜崎が真剣な眼差しで言った。
「なんでですか?」
「君、誰もいないのに45分もずっと1人でアンケート書き続けてたでしょ。ぶっちゃけ会場の片付けができなくて困っていたんだ。でも、周りの目を気にせず没頭してアンケートを書いていた。こっちは、けっこう『早く書け』オーラ出してたんだけどね。君、全然気づかないから。あの空気を読まない感じ、うちに向いているよ。だからご飯に誘ったんだ」
桐谷の中で、何かが動いた。
(僕が……周りの目を気にしない……)
桐谷は幼い頃から、「自分は周りからどんなふうに見られているんだろうか……」と、そんなことばかり考えて生きてきた。異常に他人の目を気にするタイプで、それが原因で、言いたいことも言えないし、失敗を極端に恐れる。
そんな自分が、「周りの目を気にしない」と初めて褒められた。
(ナイスホープで自分を変えられるかもしれない……)
3人の統括部長との会話を通じて、桐谷の未来に光が差した。
胸の高鳴りが抑えきれなかった桐谷は、3人との別れ際、ナイスホープに入社しようと決意した。
次回更新は3月28日(土)、8時の予定です。
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