【前回の記事を読む】上は東大・下は中卒。ベンチャー企業は、実力がすべての会社だった。その証拠として、若手社員の名刺には——

第一章 カリスマの降臨

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続けて、竜崎が教えてくれた。

「売上を上げるためには、まずは隅から隅までしらみつぶしに飛び込み営業をするわけ。そしたら何社かうちのサービスに興味を持つ会社があるわけよ。で、即契約を結ぶわけ。契約したら、今度はその会社から紹介をもらう。こうやって月100件契約が取れることだってあるからね」

「はぁ……、すごいですね」

竜崎の勢いに、桐谷は圧倒された。

「でもさ、契約を取りすぎると大変なんよ。先月なんて300人しか派遣できないのに、

600人依頼受けちゃって。ま、断らないんだけどね」

「えっ! 派遣できないのに依頼を断らないんですか? じゃあ、足りない300人は……?」

桐谷が思わず聞くと、夏目玲子が鋭い眼光で竜崎を睨んだ。

「あんたはいつもやりすぎなのよ! 毎回ケツ拭くのこっちのエリアなんだから。もっと早く依頼を回しなさいよ」

竜崎も負けていない。

「いやですよ。300人しか派遣できないと思うからできないんですよ。600人いける!と思えばいけますから。要はマインドっす」

「いけるわけないでしょ! なんとか100人はこっちから回したけど、200人も穴あけて。あんた山田商事さんから大目玉食らったじゃない!」

「あれは男の勲章みたいなもんっす。今週うちのエリアは全員会社に泊まり込みで派遣スタッフを手配しますから。山田商事さんの件、挽回しますよ」

桐谷はこのラリーを聞いても、よく意味がわからなかったが、

(売上を上げるためなら、依頼は絶対に断らない。たとえ依頼に穴をあけても……)

ということは理解した。

80点を目指すと80点しか取れないが、100点を目指すと85点で着地する。恐らく、そういうことなのだろう。

2人のやりとりを聞いていた奈良原勝が竜崎に苦言を呈した。

「社員を会社に泊まらせるのはマズいだろ。せめて1時には帰してやれよ。そもそもお前、社員を働かせすぎ」

(深夜の1時! それじゃ泊まるのと変わりないのでは……)

桐谷はそう喉まで出かかったが、言うのをやめた。

竜崎が即座に反論する。

「働かせすぎは奈良原さんでしょ。先月だって社員が胃潰瘍で2人入院したじゃないですか」

「胃潰瘍じゃねーよ、大腸炎だ」

「そうでした!」

「ハッハッハー!」

(入院ってどういうことですか……)

また喉まで出かかったが、桐谷はゴクリと飲み込んだ。