「これね、雅彦とあなたの分を編んでるのよ。お揃いは恥ずかしいかしらと思ったけど、まあ年寄りのわがままだと思って」
よし子は涙を拭いて笑った。
「嬉しいです。ありがとうございます」
(お義母さんが、私たちのためにマフラーを編んでいてくれた。こんな時に)
千鶴の言葉が胸に沁みた。この人はずっと、息子を見守ってきたのだ。母親の愛に年齢は関係ない。自分も美咲の母親として、同じ気持ちが分かる。
よし子は腹を決めた。待っていてもだめだ。雅彦が自分から扉を開けてくれるのを待つのではなく、自分からこじ開ける。それが私のやり方なのだから。
離れを出て、本館に戻った。帳場の前に立つ。中で雅彦が帳簿を広げているのが見えた。
深呼吸した。ノックをした。
「雅彦さん。入りますよ」
返事を待たずに扉を開けた。雅彦が驚いた顔でこちらを見た。目の下の隈が、前よりも濃くなっている。この人はこんなに憔悴していたのか。
「話があります。長くなります。逃げないで聞いてください」
よし子はまっすぐに雅彦の前に立った。膝が少し震えていた。でも逃げない。千鶴の言葉が背中を押してくれている。
(お義母さん、行きますよ。私のやり方で)
雅彦は机の前に座ったまま、よし子を見上げていた。疲弊した顔の中で、目だけが鋭く光っている。
「座ってくれ」
「立ったままで言います。座ったら逃げてしまいそうだから」
深呼吸した。心臓がうるさいほど高鳴っている。でも、今日ここで全部言わなければ、2人はもう元に戻れない。そう思った。
次回更新は4月11日(土)、21時の予定です。
▶物語を最初から読む
“ある条件”さえのめば、月給32万円のハロワ求人…娘に見せると震える声で「月に1度は必ず帰ってこれるんだよね?」と…
▶イチオシ回を読む
2度目のキスは、あの夜よりも深かった…体の隅々まで優しく触れられて、声が漏れてしまった。体中に電流が走るような感覚がして…
▶『愛され未亡人の、湯けむり恋物語』連載記事一覧はこちら