「これね、雅彦とあなたの分を編んでるのよ。お揃いは恥ずかしいかしらと思ったけど、まあ年寄りのわがままだと思って」

よし子は涙を拭いて笑った。

「嬉しいです。ありがとうございます」

(お義母さんが、私たちのためにマフラーを編んでいてくれた。こんな時に)

千鶴の言葉が胸に沁みた。この人はずっと、息子を見守ってきたのだ。母親の愛に年齢は関係ない。自分も美咲の母親として、同じ気持ちが分かる。

よし子は腹を決めた。待っていてもだめだ。雅彦が自分から扉を開けてくれるのを待つのではなく、自分からこじ開ける。それが私のやり方なのだから。

離れを出て、本館に戻った。帳場の前に立つ。中で雅彦が帳簿を広げているのが見えた。

深呼吸した。ノックをした。

「雅彦さん。入りますよ」

返事を待たずに扉を開けた。雅彦が驚いた顔でこちらを見た。目の下の隈が、前よりも濃くなっている。この人はこんなに憔悴していたのか。

「話があります。長くなります。逃げないで聞いてください」

よし子はまっすぐに雅彦の前に立った。膝が少し震えていた。でも逃げない。千鶴の言葉が背中を押してくれている。

(お義母さん、行きますよ。私のやり方で)

雅彦は机の前に座ったまま、よし子を見上げていた。疲弊した顔の中で、目だけが鋭く光っている。

「座ってくれ」

「立ったままで言います。座ったら逃げてしまいそうだから」

深呼吸した。心臓がうるさいほど高鳴っている。でも、今日ここで全部言わなければ、2人はもう元に戻れない。そう思った。

次回更新は4月11日(土)、21時の予定です。