「なんでも1人で背負い込もうとするの。父親譲りでね。先代もそうだった。旅館の経営が傾いた時も、誰にも頼らず1人で銀行を回っていた。胃に穴が開いて倒れて、やっと周りが気づいたのよ」

千鶴は編み棒の手を止め、遠くを見つめた。

「前の嫁――真由美さんは、そういう雅彦を上手に扱えた子だったわ。黙ってそばにいて、あの子が折れそうになった時だけ、さりげなく手を差し伸べる。それが真由美さんのやり方だった」

「私には、それができない。どうしていいか分からないんです」

(真由美さんみたいにはなれない。私には私のやり方しかない)

「それでいいのよ」

千鶴がよし子の手を握った。小さくてしわだらけの、温かい手。

「あなたはあなたのやり方で、雅彦と向き合えばいい。真由美さんの真似をする必要なんかない。あの子が2度目の結婚に踏み切ったのは、あなたが真由美さんとは違う人だからよ」

よし子は目頭が熱くなった。

「真由美さんが亡くなった後、雅彦は5年間ずっと1人だった。毎晩、真由美さんの仏壇の前で手を合わせて、旅館のことだけ考えて生きてきた。あの子が笑わなくなったのよ。食事も必要最低限しか取らなくて、このまま枯れていくんじゃないかと心配した」

千鶴の目にも涙が光っていた。

「でも、あなたが来てから変わった。笑うようになった。ご飯を美味しそうに食べるようになった。よし子さん、あなたはあの子を生き返らせてくれたのよ」

「お義母さん――」

(この人が、こんなことを言ってくれる)

「だからね、よし子さん。あの子を頼みますよ。不器用で、意地っ張りで、自分から助けてとは絶対に言わない子だけど――あなたの手が必要なの。あの子には」

千鶴はマフラーを持ち上げた。紺色と赤の2色で編まれている。