結城幸助が住むアパートの部屋には重苦しい空気が広がっていた。赤色のボストンバッグから札束を取り出したところ、たったの二百二十万円しか入っていなかったからだ。

「何だ、この札束の数は。三千万円あるんじゃないのか」

結城は声を荒げた。

「まあ、その週の組織の稼ぎが少なかったせいでしょう。そういう日もありますよ」

間下は冷静に答えた。

「これでは割に合わない。絶対に犯行がばれないなんて保証はないんだぞ」

「そうおっしゃらずに。とりあえず、あなたは百万円を超えるお金を手にしたじゃないですか。こんな時給の高いアルバイトが他にありますか」

「どれだけのリスクを背負っていると思っているんだ。ばれた暁にはあの世行きになることぐらい、誰よりも知っているだろう」

「でも、成功したのは事実でしょ。終わったことは忘れましょうよ。それより、次の手立てを考えましょう」

「次の手立て?」

久美子は終始無言で、ここまでの両者の会話を聞き終えると立ち上がり、コーヒーを入れるために台所に立った。

「聞いてくださいよ」

「何をだ」

「大金をつかむアルバイトはまだありますよ」

「本当かよ」

「久美子を追いかけている老人から金をいただくんです」

「どうやって」

「騙すんですよ」

「逃れたいと思っている相手を騙すのか」

「その関係を逆手に取るのです。策は練ってあります」

白いシルクハットをかぶる初老の男は年商が三百億円近い中堅企業の創業者で、名前は黒川作治という。

今は事実上引退し、息子に会社の経営を任せていた。妻に先立たれたせいか、七十歳を過ぎても若い女性に夢中になるらしい。

久美子もそのお眼鏡に適った一人だった。久美子の居所がわからないので、今頃は他の若い女性を漁っているかもしれない。ただ、久美子への熱の入れようは相当だったようで、未練を持っているとみて間違いはない。

「久美子をお宅で預かってもらっている間、黒川のことを調べていたのです」

「おまえ、悪だくみの算段ばかりしているなあ。他にも計画していることがたくさんあるんじゃないのか」

「いえ、いえ、ありませんよ。困窮した生活から抜け出したいと願っているだけです」

「俺が言えたことじゃないけど、少しは汗水たらして真面目に働けよ」

「そんなこと、言わないでくださいよ。私が組織の中でどれほどいじめられ、どれだけ苦しんできたか、おわかりでしょ。このままじゃ、死んでも死にきれないのです」

 

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