【前回の記事を読む】真夜中、寝ていた男の左腕を強くつかんできた彼女――その後、ふたりの関係は一気に変わった

灰色の風が吹く

仕事場は結城が便所掃除をしていたあの古びたビルの五階だった。階段の踊り場から見て一番手前にある事務所には大量のお金が運び込まれる。運び屋は二人。恋人同士を装った若い男と女だ。

その事務所はある暴力系の組織が傘下の団体から吸い上げたお金をいったん保管しておく役目を担っていた。

運び込むのは月曜日と木曜日の午前三時頃で、その日の昼に金庫の中のお金を仕分け、組織のトップや傘下の各団体の長などに分配する。曜日ごとに保管されるお金の額はまちまちだが、おおむね三千万円は下らない。傘下組織の一員である若い男が赤色のボストンバッグを抱え、若い女と肩を組みながら事務所に入り、金庫にお金を収めるとビルの外へ出ていく。その間にかかる時間はおよそ三十分だ。

自分の仕事場だったあのビル内でお金の運搬がなされているとは想像すらしなかった。清掃作業を遅らせていたら、運び屋とかち合っていたかもしれない。

結城は背中に寒気を感じた。

「あんたはなぜ、その事務所の内情を知っているんだ」

結城は間下を問いつめた。

「私は事務所を所持している組織の傘下団体で働いていたことがあるんです。今はかかわりを持っていませんけど」

間下は組織の傘下で闇金の取り立ての類の仕事をしていた。まっとうな仕事に就きたいと、つい最近、足を洗ったのだという。

「あんたにリンチを食らわせていたのは組織の連中なのか」

「そうです」

「足を洗ったというのに、なぜ痛い目に遭わされたんだ」