「失敗するなんて考えられませんよ。実際にこちらが力でねじ伏せるのは若い男一人です。ボストンバッグを奪って、そのまま走って逃げ去る。万が一、バッグを奪えなくても、その場で捕まりさえしなければいいんですよ。組織が犯人の目星をつけようにも、対象者の中に私たちはいないのです」

結城は自身の思考回路を全速力で働かせた。この犯行が警察沙汰になるか、否か。強奪するのが組織の裏金だけに、その可能性はないと考えていいだろう。

では組織が自分を犯人だと特定できるだろうか。仮にあのビルの五階で清掃作業をしていた自分の情報をつかんだとしても、ビルの管理会社に残っている情報はすべて偽物だ。現にリンチの現場を目撃したにもかかわらず、いまだに居所は突き止められていない。その可能性は低いとみていいだろう。

間下は今後、自分を裏切るような行為をしでかすだろうか。もし裏切れば、組織に犯人が誰であるかを告げ口されることくらいは理解できるはずだ。

「奪った金はどうするんだ」

結城はやや前のめりの姿勢で聞いた。

「あなたと私たちとで、その日に山分けしましょう。どうです。割のいいアルバイトだと思いませんか」

間下は笑顔を見せた。

結城は立ち上がり、狭い台所に無言で向かった。自分一人分のインスタントコーヒーをつくり、カップを片手に間下の目の前に座った。

間下の顔と久美子の顔が重なった。二人は自分と同類の人間だといっても、薄汚い性格をした間下と付き合い続けるのはごめんだ。久美子はいつか間下のもとから引き剥がせばいい。結城は心の底でほくそ笑んでいた。

 

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