パリでは常宿のすぐ前に有ったル・ルーブル・デ・アンティケールという高級アンティークのモール街へ。

ここはミュージアムクオリティといわれる名品が目白押し。知識の乏しい私にとって静かなこのモール街はバイブルであった。

この時空を超えた不思議な空気漂うフロアー。並ぶ沢山のブース。立派なケースの中には所狭しと競うかのように飾っておくディーラーが一般的であるが、ここは異なっていた。

静かにデスクに座る老婦人のまわりは数冊の本と、立派なショーケースの中にただ一つ飾られたチョッパー。

私は一瞬、数世紀も遡るあのポンパドール夫人を見ているような妄想を抱き、ミステリアスな貴婦人に「見せて頂けますか」と小さな声で尋ねる。

「貴女はチョッパーのコレクターね」と静かに取り出して掲載されている厚い資料の本を開いて見せてくれた。

鳥など小動物をさばく用途で重く頑丈でありながら、そのチョッパーの背は顔と尾がかわいい鳥の姿。これこそ私のアイテム。

フランスの貴婦人は笑顔で何故か片言の日本語での対応であった。

鳥のチョッパー

かつて過熱していたヨーロッパアンティークブーム。

日本から押し寄せる業者とのコミュニケーションは学習していた日本の言葉。心が通いあう片言の日本語。それはパリのど真ん中での出来事。

ただただ美しいので買う、その姿勢は未だ健在であった。

宿に戻り再び取り出してながめながらこの出会いに浸る幸福感。

一人ではない。傍らには夫がいた。

このチョッパーは後年ホテルのレストランオーナーの元に旅立っていった。

夫は笑顔だった。㐂ぶ私を見詰めていた。

私は決して売り惜しみはしない誇り高いディーラー魂を持っている。

手放したくない等とコレクターに変身したりはしない。

私に見染められてそして更に私の大好きな人への偏った手放し方。その幸せな旅立ちを見届ける。

 

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