帰り道、屋台でイカ焼きを買った。よし子がひとかじりして、熱さに目を細めた。
「熱い!」
「ふうふうしないと」
雅彦がよし子の分を持って、息を吹きかけた。子供のようなその仕草が可笑しくて、よし子は吹き出してしまった。
「なんですか」
「いえ。……ありがとうございます」
(この人の、こういうところが好きだ。かっこつけていないところが、かえって好きだ)
車に戻る頃には、夕暮れが迫っていた。助手席に座ると、雅彦が発車する前にちょっとだけ間を置いた。
「……今日、楽しかったですか」
「とても」
よし子は迷わず答えた。雅彦が前を向いたまま、少しだけ笑った。
「よかった」
それだけだった。でも、その横顔がとても嬉しそうだったから、よし子はずっとその横顔を見ていた。
(こんな日が、これから先も続くといい。ずっとずっと、続いてほしい)
旅館への山道を戻る間、2人はほとんど喋らなかった。それでも不思議と沈黙が苦しくなくて、よし子は窓の外の夕焼けを見ながら、ゆっくりと息をついた。
次回更新は3月28日(土)、21時の予定です。
▶物語を最初から読む
“ある条件”さえのめば、月給32万円のハロワ求人…娘に見せると震える声で「月に1度は必ず帰ってこれるんだよね?」と…
▶イチオシ回を読む
2度目のキスは、あの夜よりも深かった…体の隅々まで優しく触れられて、声が漏れてしまった。体中に電流が走るような感覚がして…
▶『愛され未亡人の、湯けむり恋物語』連載記事一覧はこちら