帰り道、屋台でイカ焼きを買った。よし子がひとかじりして、熱さに目を細めた。

「熱い!」

「ふうふうしないと」

雅彦がよし子の分を持って、息を吹きかけた。子供のようなその仕草が可笑しくて、よし子は吹き出してしまった。

「なんですか」

「いえ。……ありがとうございます」

(この人の、こういうところが好きだ。かっこつけていないところが、かえって好きだ)

車に戻る頃には、夕暮れが迫っていた。助手席に座ると、雅彦が発車する前にちょっとだけ間を置いた。

「……今日、楽しかったですか」

「とても」

よし子は迷わず答えた。雅彦が前を向いたまま、少しだけ笑った。

「よかった」

それだけだった。でも、その横顔がとても嬉しそうだったから、よし子はずっとその横顔を見ていた。

(こんな日が、これから先も続くといい。ずっとずっと、続いてほしい)

旅館への山道を戻る間、2人はほとんど喋らなかった。それでも不思議と沈黙が苦しくなくて、よし子は窓の外の夕焼けを見ながら、ゆっくりと息をついた。

次回更新は3月28日(土)、21時の予定です。