【前回記事を読む】2人で迎えた初めての朝…「どこ行くの」彼の低い声が耳元で響いて、背筋に甘い痺れが走る。「もう少しだけ」と抱き寄せられ…
二人きりの休日
「今日は休んでください」
雅彦にそう言われた月曜日の朝、よし子はしばらく意味が分からなかった。
「え?」
「従業員には月に2日の公休があります。あなたはまだ一度も取っていない。今日、休んでください」
「でも、月曜日は布団の——」
「節子さんに頼んでおきました。行きましょう」
「どこへ?」
雅彦がほんの少し、耳の先を赤くした。
(耳が赤い。この人、照れているんだ。可愛い)
「……ドライブ、でもどうかと思って」
よし子はそれを聞いて、思わず口元を手で覆った。笑ってしまいそうだったからだ。54歳の男性がこんなにもたどたどしく「ドライブ」と言うなんて、と思ったら、胸がきゅっとなった。
「行きます。行かせてください」
2人で旅館を出たのは、10時を少し過ぎた頃だった。
雅彦の車は古い国産のセダンで、助手席のシートが少し沈んでいる。よし子が座ると、雅彦が何かを言いかけて止まった。
「何ですか?」
「いや、……似合っています。私服が…」
(え。今何て言ったの)
よし子は自分の服を見下ろした。地味な紺のカーディガンにチノパン。仲居の仕事着を脱ぐと、自分がどんな格好をすればいいのかよく分からなかった。
「こんな普通の格好で?」
「普通がいいんです」
雅彦はそう言って、視線を前に向けた。
(普通がいい、か。……嬉しいような、よく分からないような)