「ああ。それにオオカミがジャンプして入って来れないように、ある程度の高さが必要だ。五メートルくらいは欲しいな」
「五メートル!」林は目を丸くした。

「しかもそれを我々のキャンプ範囲全体を囲むようにする」
「そんなに高くて長い塀、どうやって作るの?」

「木だよ。その辺に生えているのを見繕って切り出す。道具は観光案内所のものを使う。労力は、男子総出だ」

「そんなすごいのを作れるかな。なんだか現実味が湧かないよ。むしろ、こんな風にしたらどうかな。第一段階として、とりあえずキャンプ全体をぐるっと囲む低い塀を作る。それだけでもかなりの動物の侵入を防ぐことはできる。で、第二段階として、必要な場所を選んで高さを足していく」

早坂は首を横に振った。

「作るなら最初からしっかり作るべきだ。中途半端なものに労力や時間を掛けるのは、最終的にはコスパが悪い。それに、今の俺たちにとって、塀はどんなに立派に作っても立派すぎることはない。安心安全に上限が無いようにね」

「でも、大工事だよ。ぼくらには何一つノウハウが無い」

早坂はニヤリとし
「なあに、俺たちには『建築大臣』がいるじゃないか」

「そうか、岩崎君か!」林の顔が明るくなった。

林と同じ大学で建築学科専攻の岩崎宏は、肥溜と簡易トイレの設計以来、何かを作るとなると頼られる存在になっていた。北の丘の斜面に畑を作った際は、水の流れを考えて掘削量を計算したし、五連のカマドづくりの際も知恵を出した。その結果、キャンプで「建設大臣」の名をほしいままにしていた。

「なんだ? また俺の出番か?」
ふと岩崎の声。

「おや、そこで聞いていたな?」早坂は大臣を手招きした。「今度は大工事になる。時間も掛かるだろうが、急がなきゃいけない。遅くとも冬までには仕上げる必要がある」

「キャンプ全員の協力は取り付けられるんだろうな」岩崎は尋ねた。

林はうなずき、
「そこはなんとかするよ。絶対に必要なものだから、みんな承知するだろう。一度オリエンテーションをやろう。みんなに塀づくり事業の説明をするんだ。工事に関する指揮系統は全部きみが持てばいい。きっとみんな賛成する」

早坂もうなずき
「もちろん俺たちも協力する。スコップを担いでな」

岩崎は得心し、
「じゃあみんなに説明する前に、あらかた設計を済ましてしまおう」