Chapter3 定住への道

その晩、林は床に就き、暗闇を見つめて考えた。

今、自分たちは縄文時代にいる――周辺を探検して道の途絶え方や植生を見る限り、観光案内所を中心に半径三百メートルのエリアがタイムスリップしている。そんなことがありえるのかどうかは、いまだもって百パーセント信じられないのだが、百歩譲って本当だとすると、『現代』の笹見平は、今どうなっているのだろう。観光案内所の付近だけが半径数十メートルにわたって鬱蒼と茂った縄文時代になっているのだろうか? もしそこに縄文人がいたら、『現代』という未来にタイムスリップしているのだろうか。今頃驚いていることだろう。ちょうど今、自分たちが驚いているように。

――それ、ちょっと面白いな。
知らず知らずに頬肉が挙がる。

そしてこの状況で面白がれる自分に、ちょっと驚いた。

夜が明け、東の山肌を舐めるようにして朝日が昇った。薄雲の向こうに銀板のように光を放つ太陽は、地表に少しずつ温度を与えていった。

笹見平では、すでに半分以上のメンバーが目覚め、竪穴式住居の外に出て影を伸ばしていた。空は青と黄金色のグラデーションに彩られ、実にすがすがしい。だが誰もそれを素直に感動的に受け止める者はない。昨夜の話の刺激が強すぎ、眠れなかったり、興奮で早く目覚めたり――みな怯えたような顔をしている。縄文時代だと認識した上での初めての朝を迎えたのである。

これからずっと、ここでこうして暮らさねばならないのか。

今までは、心のどこかで「明日にでも迎えが来るのではないか」「悪い夢なら醒めるのではないか」という思いがあった。しかし、今日からは違う。改めてメンバーが考えたのは、安全確保だった。縄文時代だろうが何時代だろうが、大自然のど真ん中で暮らすのだから、せめて生活の拠点くらいは安全にしておきたい。

「またイノシシが襲ってきたらまずいよね」
「オオカミやサルもいるだろう」
「クマも出るかもしれない」

これまで誰一人ここで冬を過ごすことになることを考えた者はいなかったから、クマの発想はメンバーを震え上がらせた。早坂は林に提案した。

「塀を作ろうぜ。イノシシやオオカミが入って来れないように壁をめぐらすのさ。そうじゃなきゃ、夜もおちおち眠れない」

林は少し考え、
「掘割じゃだめかな。何かを築き上げるより、掘る方が簡単そうだ」

「それは俺も考えた。でも誰かが滑って落ちたら危ないし、水が溜まって虫がわくかもしれない」
「なるほどね。じゃあ、イノシシが体当たりしても壊れないような頑丈なものじゃなきゃ」