私たちは夕方まで仕事をしていたため、帰宅後、夜に「J」を連れて散歩に行くことが多かった。
ある晩、路の傍らに落ちていたつまようじを「J」が飲み込んだことがあった。
「どうしよう!」
また大急ぎで深夜に病院へ行く羽目になった。
胃の中のものを吐かせる注射をしてもらい、事なきを得た。
身体が大きい割には「J」は臆病で繊細で、手のかかる我儘な〝悪ガキ〟だったけれど、そのすべてが可愛くて、愛しかった。
4か月になった頃からは、犬の訓練士さんに週に2回ほど自宅にトレーニングに来て頂くようになった。
「J」は、いろいろなことをどんどん覚えていった。何より驚いたのは、人間の言葉をほとんど理解できるようになったことだ。しかも、私と「J」は、目と目で会話が出来るようになった。
「J」の目は、まるで人間の瞳のようだった。
「おまえ、前世で何かやらかして犬にされちゃったのか?」
「背中のジッパーを開けると、中に小さいおじさんが入っているかも~」
こう言って夫と笑ったものだ。
「J」はこんな私たちの会話をじっと聞いていた。
赤い縄
「J」はおもちゃで遊ぶのが大好きだった。
ピーピーと音が鳴るボールやぬいぐるみはすぐに壊してしまうため、ゴム製の〝カミカミするためのおもちゃ〟をたくさん揃えたりした。
中でも大のお気に入りは、真っ赤な縄で編まれた太いロープ。
当時通い始めた、赤坂にあるしつけ教室で購入したもので、正式名は「エナジーロープ」。
引っ張りっこするためのおもちゃだったが、「J」は片時もこの赤い縄を離そうとしなかった。
「『J』くん、ナワナワ持っておいで!」と言うと、家中を探して持ってくるのだ。
「探してこいゲーム」は、お仕事犬であるボーダーコリーの本能を掻き立てるのかもしれない。