「そうだったんだ」

「陣痛が来る前、貢さんと買い物に出かけたら、また瑠美さんが現れて、貢さんに抱きついてきたんです」

「えっ、それで?」

「貢さんは、瑠美さんを自分から離して、瑠美さんを愛することは出来ないって、はっきり言ってくれたんです」

「そう、良かったわね。それで、貢を許せるの?」

「どういう意味ですか?」

「いくらあの女と何もなかったって言っても、一晩ホテルに一緒にいたのよ。本来ならまずホテルに行ったのだけでアウトだし、自分の気持ちを確かめるため、沙優さんを一人にしたんだから、この先思いやられるというか、全く子供なんだから……」

華菜さんは自分のことのように怒っていた。

「私は大丈夫ですよ。私にも責任はあります。あの頃、貢さんは仕事が忙しくて、私はわがまま言っちゃいけないと我慢していました。寂しい気持ちくらいは伝えておくべきでした。一人にしておいても大丈夫って思わせてしまった私の責任です」

「なんていい奥さんなのかしら。貢はめんどくさいやつね」

「本当に」

私達は二人で笑った。

それから退院の日がやってきた。

「名前なんだが、貢介(こうすけ)はどうだろう」

「いいと思います」

「南條貢介、よろしく」

「貢さん、一つお願いがあります」

貢さんはなんだろうと見当がつかないような表情を見せた。

「お仕事忙しくても、貢さんとその日あったことをお話しする時間を作ってください。そうしないと、私、寂しいから」

私はこれから我慢しないでちゃんと自分の気持ちを伝えようと決めていた。貢さんもその方がいいと思ってくれると信じて……

貢さんの返事を息をのんで待った。

「俺もそう思っていたんだ。あの時仕事が忙しくて、全く沙優と話す時間が取れなかったと反省してたところだったんだ。同じ思いで良かったよ」