市谷の防衛省の西側に龍魔神宮というほとんど人に知られていない神社があり、その境内の社務所には夜が更けたにもかかわらず、まだ灯りがついていた。そこへ多田の秘書であった山口が訪れた。
彼は巫女の案内で薄暗い廊下を進み、奥の大広間に通された。
そこは畳部屋であるにもかかわらず、ヨーロッパのアンティーク家具が並べられており、中央にはローテーブルとソファが設えてあった。
障子の奥には立派な日本庭園に面した広い縁側があり、そこに置かれている籐椅子に座った頭の禿げ上がった老人がガーデンライトに照らされた仄暗い池の水面を陶然と眺めていた。山口は老人の前に正座し頭を下げた。
「また西須悠雅が暴走したそうだな」
「私の監督不行届きで誠に申し訳ありません。西須には厳重に注意しておきます。処分はいかがいたしましょう」
「河原賽子に神撰の動きを知られたのはまずかったが、大勢に影響はない。西須は極めて優秀な超能力者(サイキック)だ。臍を曲げられても困る。今回は大目に見てやることにしよう」
「総裁の恩情によくよく感謝するよう本人に伝えておきます」
「ところで、原防衛大臣の方はどうだ?」
山口は顔を上げて答えた。
「国会議事堂がテロリストにより襲撃され、宮本総理を始めとした国会議員のほとんどが命を落とした場合、緊急に戒厳令を敷き、原防衛大臣が総理大臣代理に就任するという計画、大臣には既にご了承いただいております」
「よくやった。一度戒厳令を敷いてしまえばこちらのものだ。警察と自衛隊は神撰が把握する。不満分子は暗殺によって除けばよい。多田補佐官のようにな。傀儡総理を使って、これからは我々神撰がこの国を支配するのだ」
「待ち遠しい限りです」
「だが、この計画の障害になるのがあの河原賽子だ。奴の力は計り知れない。必ず我々の計画を邪魔してくるだろう。だが、現時点では神撰最強の西須でさえ、奴を仕留めることはできない。やはりどうしても青竜(チンロン)を目覚めさせる必要がある」
「総裁、私はその青竜に関しては噂でしか聞いたことがありません。一体どのような存在なのでしょうか?」
「そうか、おまえには見せたことがなかったな。ついてきなさい」
老人は山口を隣の広間に連れて行き、部屋の中央の畳の上に二人で立ち、持っていたリモコンのボタンを押すと、その畳だけがエレベーターのように地下に向かって下がり始めた。山口は驚いて辺りをきょろきょろと見回している。数十メートルは下ったかと思うと、畳は地下の研究室のような部屋に到着した。
次回更新は3月22日(日)、21時の予定です。
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