あの時が走馬灯のように蘇る。俺はあの時、なぜか運命のようなものを感じた。瑠美のことがあり、華菜にも情というものを感じられなかった。いや、人間不信に陥ったといっても過言ではないくらい人との接触を避けたかった。
なのに、あの時、一生懸命沙優を看病した。しかも、キスしたい、抱きしめたいなど、とっくの昔に忘れていた感情が湧いてきた。可愛いと思わせる女がいるなんてこともまさかの驚きだった。
「沙優、また明日くるな。早く目を覚ましてくれ。そして俺の名前を呼んでくれ」
俺は病院を後にした。
沙優は華菜を頼りにしていた。華菜の呼びかけに反応するかもしれないと思い、華菜と連絡を取った。
「華菜、沙優が入院した」
「えっ、赤ちゃん生まれそうなの?」
「違う、マンションで転倒して頭を打って、意識不明の重体だ」
華菜の顔色がみるみるうちに青ざめていった。
「意識不明の重体って、危険な状態なの?」
華菜は驚きに声が上擦(うわず)っていた。
「沙優は集中治療室にいる。家族以外の面会は駄目なんだが、十五分だけなら先生に頼んでみるから、沙優に声かけをしてみてくれないか」
俺は可能な限り、沙優の意識が戻るようなことを試したかった。しかし、やはり集中治療室には家族以外は入ることは出来なかった。
「悪かったな、ここまで来てもらったのに……」
「沙優さんは貢が仕事中に倒れたの?」
「いや、長期休暇を取りホテルにいた」
「どういうこと?」
俺は華菜に怒鳴られるのを覚悟して、事情を話し始めた。
「瑠美への自分の気持ちをはっきりさせたかった」
「はあ?」
華菜の表情が怒りの形相に変わった。