【前回の記事を読む】「ごめん。しばらくホテルから仕事に行く」妊娠中の妻と元カノの間で揺れる気持ちを確かめる夫。しかしその頃には妻は…

第十章 思い出せない時間

「こちらに緊急搬送された南條沙優の夫ですが、沙優は大丈夫でしょうか」

「しばらくお待ちください、担当医を呼び出しますので、そちらでお待ちください」

沙優の身に大変なことが起こっていようとは、この時は想像もつかなかった。しばらくして、担当医の先生が俺の元にやってきた。

「南條沙優さんのご主人様ですね」

「はい」

「沙優さんはマンションの部屋で倒れているところを、コンシェルジュの高城さんによって発見されました、貧血を起こして転倒して頭を打って意識不明の重体です」

「えっ、沙優が……」

俺は突然の出来事に戸惑いを露わにした。

「沙優は妊娠中なんですが、赤ん坊は大丈夫でしょうか?」

「胎児に影響はありませんでした」

「沙優、沙優に会えますか」

「集中治療室にいます、こちらにどうぞ」

先生は俺を沙優の元に案内してくれた。沙優はベッドに横になり、見るも哀れな姿で、俺は自分自身を責めた。八ヶ月目に入った沙優を放っておいた報いだと嘆いた。

ごめん、沙優、俺はどうすればいいんだ。それ以来沙優の意識は戻らない。俺は毎日病院へ足を運んだ。

集中治療室の面会は家族のみで、十五分だけだ。

「沙優、ごめんな、俺が自分のことしか考えなくて、勝手な行動を取った罰があたったんだな」

沙優は目を閉じて全く動く気配がなかった。

「沙優と初めて会ったのは寒い雨が降っていた十二月だったな。沙優が俺のマンションで雨宿りしていて、熱があって俺が看病したんだったよな」