「なんと。

それでなくても、文武両道にすぐれ、血気盛んな後鳥羽院様に私は、宝剣が海底に没したのはもはやその必要がなくなったためである、鎌倉将軍という武力を剣として使いこなし、後鳥羽院様は国家安泰(こっかあんたい)と平和のための政(まつりごと)をなさってください、と幾度も奏上していたものを。

なんでいまさら、宝剣探索を」

「すべては、院近臣(いんのきんしん)の追従(ついしょう)のせいです」

「なんと嘆かわしい。

私が生まれてすぐに保元の戦が起こり、平治の乱、源平の乱と、この世は戦乱のやむことが無かった。

いまや日本中に、戦(いくさ)で亡くなった死者が満(み)ち満(み)ちている。

それが怨霊(おんりょう)となったら、どんなに恐ろしい天災、人災が起こることか。

国家安泰、平和こそが、彼らの魂を鎮(しず)め、慰めるただ一つの道。

鎌倉幕府と事を構(かま)えて、この上さらに戦(いくさ)を起こすなど、言語道断(ごんごどうだん)である。

だが源頼朝公も、我が兄九条兼実も、今は、亡くなってしまった。

わたしは一人、この世に残された。

だからせめて、ここ吉水(よしみず)の大懺法院(だいせんぼういん)で国家安泰の秘法を行いつつ、民に近づき、一切衆生(いっさいしゅじょう)に仏の道を説こうと思っているのだよ」

「民には、仏の道は難しすぎるのです」

聖覚は、悲鳴のような声をあげた。

 

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