第一章 カリスマの降臨

〈1〉

(なんだこの群衆は……)

遡ること7年前――2000年4月。

大学4年生の桐谷悟は、紺色のリクルートスーツを身にまとい、株式会社ナイスホープの新卒向け会社説明会に参加していた。

普通、こういった説明会は30人ほどの学生が集まり、皆、黒髪に清潔感のあるスーツ姿で、静かに説明を聞く。しかし、ここはまるで異世界だった。

会場に集まった学生は100人を優に超える。スーツこそ着ているものの、やたらとおしゃれなデザインを選ぶ者、茶髪の者、さらには肌を真っ黒に焼いたガングロまでいる。

話し声もやたら大きく、まるでクラブのような熱気が渦巻いていた。ひと言で言えば――全員、ギラギラしている。

就活生とは思えない異様な雰囲気に、桐谷は圧倒された。

突然、会場の照明が落ち、司会にスポットライトが当たる。

「それでは、株式会社ナイスホープ代表取締役社長、張目健剛(はりめけんごう)よりご挨拶です」

会場が静まり返る。

司会とは反対側にある扉が開く。光の中から男がゆっくりと歩きだした。

(これが社長……)

桐谷は一瞬おののいた。40歳には見えない褐色肌でオールバック。エネルギーに満ちた表情。身長は170センチほどだろうが、2m近い大男に見える。

凄まじいオーラと迫力が通常の人間の域を超えている。桐谷は圧倒され、息を呑んだ。

張目健剛が100人の学生の前に立った。前後、左右を見渡し、一人ずつ学生の顔を見つめている。会場の学生は瞬きもせず、この男の言葉を待っている。そして、張目は口を開いた。

「今日、私が伝えたいことは、たった一つ――弛(たゆ)まぬベンチャースピリッツ」

張目は続ける。

「私は何不自由ない家庭に生まれながら、父の会社が倒産し、生活保護を受ける身となった。

中学生の頃から新聞配達で生計を立て、死ぬ気で勉強し、大学に入った。

大手広告会社に就職し、テーマパークのプロデュースで成功。

それを機に独立したものの、巨額の借金を背負い、街金融にまで手を出して返済に追われた。

だが、私は負けなかった。

絶対に、這い上がってやると誓った。

そして私は、人材派遣会社・株式会社ナイスホープを創業した。

設立5年で、年商100億円のベンチャー企業をつくりあげた」

会場は静まり返り、学生たちは張目の話に釘付けになっている。張目が最後に語気を強めて言葉を残した。

「ハングリー精神を忘れるな」

 

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