プロローグ
2007年12月21日(金)。
六本木の賑やかなバーで、桐谷悟(きりたにさとる)は合コンの真っ最中だった。フロアは数百人の男女で埋め尽くされ、酒と笑い声が飛び交っている。
「桐谷さん、中岡さん来ないっすね」後輩の夏野が心配している。
中岡といえば管理本部の本部長で、桐谷より5つ年上。無類の合コン好きとして社内でも有名で、どんな合コンにも誰よりも早く会場入りする男だ。しかし、今夜はどういうわけか姿を見せない。
桐谷がメールを送っても「遅れるから先にやっといて」としか返ってこない。
一次会が終わり、二次会に移動する。再び桐谷は中岡にメールした。
「中岡さん、もう店移動しますけど、来れそうですか?」
今度は返信すらない。その後も、中岡は姿を現すことはなかった。
桐谷は、(きっと何かあったんだろう……)と思いながらも、深夜3時、合コンはお開きに。タクシーで帰宅し、ベッドに倒れ込む。酒が回り、数秒で寝落ちした。
――朝7時。突然、携帯が激しく鳴り響いた。
朝方の静寂を引き裂くような着信音。桐谷は布団の中で眉をひそめた。
(朝から誰だよ……)
無視しても鳴り止まない。仕方なく手を伸ばし、半ば寝ぼけたまま通話ボタンを押した。
「はぁい……」
「日経新聞を読んですぐ本社にコイ!!」
相手は、直属の上司・佐口だった。怒鳴りつけるような声に、一気に眠気が吹き飛ぶ。
「……は? なんすか朝っぱらから」
合コン明けの体は重い。しかも今日は休日だ。
「いいから日経を読め! すぐに本社だ! わかったな!!」
ガチャン。強引に切られた。
桐谷は慌ててベッドから飛び起き、マンション1階のコンビニへ駆け込む。
日経新聞を手に取り、表紙を見た瞬間、目を疑った。
「ナイスホープ事業停止命令」
心臓が凍りついた。
(うちの会社で……とんでもないことが起きている……)
昨日、中岡が合コンに来られなかったのは、きっとこの対応のせいに違いない。
桐谷は新聞を握りしめ、六本木ヒルズにある本社に向かった。