Chapter3　定住への道

砂川は土人形を指差した。木崎は人形の顔を覗き込み
「うーん。何かのゲームのキャラですか？」

「違うよ」砂川は顔を引きつらせて言った。
「これは郷原古墳で出土したハート形土偶だよ！」

国文学専攻の砂川は、教養科目で考古学の授業を受けた時の資料に、この土偶の写真が掲載されていたのを覚えていたのである。

「ハート？　土偶？」

木崎には砂川の荒い鼻息の意味がこれっぱかりも分からなかった。むしろ普段寡黙な砂川がこれほどまで興奮していることの方が不思議だった。

「きみは驚かないのか！　これは郷原古墳の」

「別に驚きませんよ。郷原古墳ってここからまあまあ近いじゃないですか。それに、そんなのいくらでも複製があるでしょう？　町に出ればお土産屋さんにたくさん並んでるし」

「これが複製かどうかは分からないけど、みんなで『原始時代に来ちゃったかもしれない』って話が出ている時にこいつが出てきたってことは、仮説を裏付けるよ」

「そんなもんですかね」木崎は訝しがった。

「この土偶、他の男子にも見せるよ。持っていっていい？」
「いま外にいる子たちはみんなもう見ましたから。勝手にどうぞ」

砂川は土偶を引っ掴むと竪穴式住居に取って返した。

その日の夕食後、みなが集まっているところで林が言った。

「みんな、このままで聞いてほしい。今日、みんなは観光案内所の前に置かれた不思議な形の土人形を見たと思う。それについて大学生の詳しい人たちがいろいろ検討した結果、一つの結論に達した。沼田君から説明があるから、聞いて」

脇で沼田が立ち上がった。彼は太り気味の身体を真っ直ぐに起こすと、一同を一瞥もせずしゃべりはじめた。