第三章

(一)ホセフィーナ先生の入学許可証

初めて見たその小学校は、慎ちゃんが想像していたのとはまったくちがっていました。

通りから見るとふつうの民家とそれほど変わりはなく、校門もなければ、日本のどこの学校にも植えられた「桜の木」もありません。

校名は「シモン・ボリーバル」。ラテンアメリカの解放と統一に貢献したベネズエラ人の英雄の名前なのだそうです。

玄関のピンク色のとびらを開けると、すぐ左手にせまい教室が二つ、右手に事務所と職員室が共同になった部屋が一つありました。

教室の中は色とりどりの机やいすが整然と並び、かべ板には生徒たちが描いた絵や、切りぬかれた紙製のアルファベットが、重なり合うようにはられていました。学校というより、(集会所)かな?

二十メートルほど廊(ろう)下の奥に、子どもたちが走り回れるような、小さな遊び場がありました。

ちょうど休み時間だったのでしょう、慎ちゃんと同じような年ごろの子どもたちが十人ほど、その広場のブランコに、むらがっていました。

慎ちゃんは母さんの手を取って、そっちのほうへ引っ張って行きました。

ブランコは、広場全体をおおうほど大きな木の枝から垂れ下がっていました。この大木のおかげで、そこはとてもすずしく、通りの暑さがうそのようです。

子どもたちの何人かが、慎ちゃんと母さんに気づいたので、「オーラ」(ハーイ)と片手をあげて慎ちゃんがあいさつをすると、その中の何人かが「オーラ」と答えてくれました。

ちょうどそのとき、後ろから、

「セニョーラ、ミーネ?」

だれかが母さんに声をかけたのです。

「シー。ブエノス ディーアス、セニョリータ」(はいそうです。おはようございます)

声の主に振り向いて母さんが元気よく返事をしました。

  

👉『ぼくとマンゴとエルマーノ』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】40代半ば、自分が女であることを忘れて10年以上。デートや恋がしたくて、ネットで出会い系や交際クラブを探してみることにした

【注目記事】マッチングアプリで出会った男に騙され監禁。そこには複数の女性がいて、上の階からは「お願い、殺さないで」と懇願する声が…