【前回の記事を読む】スペイン語上達のためダハボンへ。30分ほどバスに揺られていると、鉄砲を持った迷彩服の兵士がずかずかと入ってきて...

第二章

(三)ダハボン市へ

検問所の前を通り過ぎると二百メートルほど一直線の街路になっていて、これまで通って来た道とはちがって、一つも穴のないきれいにほ装されたアスファルトの道でした。グアグアはまるで新車にでもなったのかと思うほど、すべるように走りました。

沿道には同じ間かくで植えられたヤシの木が、何本も何本も空高くのびていました。歩道の横にはカラフルなコンクリート製の平屋が整然と並んでいます。

道のつき当たりに何かの記念碑が建っていました。右側をぐるっと回って向こうへ行くと、すぐ左側に緑いっぱいの公園が見えてきました。公園の回りには二階建ての白いビルディングがいくつかあります。

「前方に階段がついた建物が見える? あれは警察署よ」

母さんがそれを指さしながら説明してくれたとき、突然グアグアがブレーキをかけて急停車しました。屋根の上の動物たちが、「クワッ」とか「ブアッ」などの不満をもらしました。

グアグアの中の乗客全員がシーンとして、座ったまま同じ方向を向いています。慎ちゃんは、何事が起こったのだろうと、みんなと同じ方向を見ました。

ラッパの音が遠くで鳴り、町が凍っていました。通りを歩いている人全員がまるで「時間よ、止まれ!」とだれかが唱えて、ほんとうに時間を止められたかのように、み〜んなみ〜んな立ち止まり、ラッパ音のする方を向いているのです。

道路には、直立不動の姿勢をとっている人。かぶっていた帽子を胸にあてている人。男の人たちはみんな敬礼をしています。

ラッパの音は、グアグアの左ななめ後ろの方角から聞こえてきました。音がする方向に目をやると、公園のヤシの間から三人の兵士が見えました。

一人がラッパをふき、残りの二人がドミニカの国旗をくくりつけたロープを持って、それをゆるり、ゆるりと引っ張っています。そして、兵士たちはまるでポールの先端まで登って国旗をすぐそばで見ていたかのように、ラッパの最後のメロディーが消えた瞬間、ぴったりと国旗をあげきりました。

大人風に言うと、「ドミニカの国旗は、神を象ちょうする青、祖国を象ちょうする赤、それに自由を象ちょうする白。中央に国章というものがあります」。そんなあざやかな国旗が、風の中で勢いよくひるがえりました。

メロディーが終わったとたん、町の中はまた、もとの動きのある世界にもどりました。

急に、むっと熱い空気がグアグアの窓から入って来たような気がしました。

「慎一、降りようか。学校はすぐそこよ」

母さんがバスのやや斜め前方をさしました。 それは、母さんがさきほど教えてくれた警察署のすぐ左横にありました。もし警察署が父さんくらい大きな大人としたら、その学校は赤ちゃんがハイハイしているほど小さな小さなピンク色の平屋の建物でした。

ここが、慎ちゃんがこれから半年ほど学ぶ学校だったのです。