第一章 ある教授の死

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「高槻さんは、こちらに来られる途中だったようですね」

「そうです」

「どういった用件だったんでしょうか」

「なにかわたしに頼みごとがあるとおっしゃっていました」

「どんな頼みごとだったんですか。ぶしつけな質問で申し訳ありませんが」

「それが、よくわからないのです。わたしもどんなことだろうと思っていたんですが」

「高槻さんがこちらに電話してこられたとうかがっていますが、間違いありませんか」

「ええ、そうです」

「高槻さんとは、どんなおつきあいなのですか」

「つきあいというものはありませんでした。今回電話でお話ししたのが初めてです」

「そうですか。それなのにどうしてこちらに来ようとされていたんでしょう」

「ええ。じつは、ある出版社の担当者から話がありまして、高槻教授という人がわたしに会って頼みたいことがあるといってこられているんだけど、連絡先を教えてもいいでしょうかと聞いてきたんです」

「ある出版社というのは、松風出版ですね。担当者というのは誰ですか」

「沢田まゆみという女性です」

「沢田まゆみさんですか」

松岡はつぶやきながら手帳に書きとめていたが、あらかじめ調べていたことを確認しているだけらしい。沙也香はふと二日前のことを思い出した。

マンションの自室で次に書く予定の小説の構想を練っていると、沢田まゆみから電話がかかってきた。彼女は数年前から沙也香の担当になっている。