「お疲れ様です」

声をかけて帰ろうとするが、少しいつもの朴訥先輩ではない。なにか分からないけど、声をかけてほしいのかな、と感じた。

「どうしたんですか、遅くに」

そう声をかけた。

「うん、あのね、装飾しなきゃいけなくて、壁一面に。明日イベントがあるからそれまでに。やっと制作終わって。これから飾るんだけど間に合うかな」

間に合うかな、明日の朝までに。壁一面真っ白で、私にも分かりませんが、間に合うかな、一人では間に合わないんじゃないですか、多分。

「手伝います」

言うよりほかないです。

「おうち、大丈夫? いいの?」

スマホで夫に連絡して「ぜんぜん、オッケーだよ」と言われたので、手伝うことになった。

「ありがと、目標9時ね」

朴訥先輩がこれを貼って、それ持ってここに立って、それとって、糊、あ、ガムテじゃなくてそこ、もっと強力なテープ。

しばし朴訥先輩は作業を止めて考える。

「これ、どうしたらいいかなあ」

私は、クマのような大きな手の先輩が作っためちゃくちゃかわいいハートマークを持って、こうですか、この向きですか、離れて見てください等、助手に徹する。

助手すること2時間半。夜の9時半だ。

2月間近だったので、バレンタインの装飾。なかなかに乙女っぽい装飾、そして実に素晴らしい壁絵ができあがった。

クマの手からできたとは思えないので、忠実な助手は拍手した。そして良い後輩であるので、甘いコーヒーなど自動販売機で買って先輩にあげた。

「やあ、終わるもんだね、ほんとうにありがとう」

朴訥先輩の笑顔はかつて紅顔の青年だったことを思わせる、少し恥じらうような笑顔だ。

「疲れたでしょう」

労わりの言葉、かたじけない。そうですよ、サッカーしてきた後だからね。