そうなの、と彼女も少し俯いて答えた。彼女は離婚してしばらく両親とも疎遠になった、とも言っていた。

仲のよい友達にも打ち明けられない話がある。一人でやり遂げなければいけない時がある。

彼女の場合、DV相談窓口や女性シェルター等もあった。しかし、決断するのは自分。主人公は自分、というのを取り戻さなければいけない。それは自分にしかできない。

拓也さんはどうしてその苦しい数年をやり過ごしてきたんだろう。噂にはスロット、パチンコ、借金、喧嘩等々と聞いている。そんな形でせいぜい爆発するほかなかったのか。

ただ私は彼の話を聞いただけだ。そして「性欲」という形で彼の心は私にぶつかってきた。

私は彼を信じて、ほんとうに触れるか触れないか程度の抱擁を許容した。

それは記録には決して記せないことだった。

お願い、自分でよく考えて、選んで、掴んで。私の思いはそうだった。

正解、だと思った、でも違った。

拓也さんの投げキスを「あはは」と笑って応える。こんなことになるとは思わなくて。

小石を池に投げたら、波紋が広がる。それが今の私と拓也さんの周りの「雰囲気」。

「やりにくーい」

と私は家に帰ると一人ベッドで呟く。逃げ出しちゃいたいよ。人生、あんな坂、こんな坂、まさか、だよ。おばさんくさい常套句、知らずに出たよ。平平凡凡に夫と可愛い娘、犬でも飼って暮らしたいんだよ、私。

朴訥先輩の言葉よろしく、気が重い。仕事には行きたくない。毎日歌って踊って暮らせればいいな、と思う。金銭、生活、ですよねえ、とひとりごちて職場へ行って、おはようございます、おやすみなさい、また明日ね。