第一章 マーラー交響曲第八番

マーラーの交響曲第八番に話を移そう。マーラーはご存じのように九曲の交響曲と『大地の歌』を合わせた一〇曲の交響曲を完成させた。

このうち第九番交響曲と『大地の歌』の初演にはマーラーの病は待ってくれなかった。この二曲と未完に終わった第一〇番交響曲を合わせて、遺作三部作と呼ばれることもしばしばだ。

未完の第一〇番交響曲を加えて遺作三部作と呼ばれるのは語呂が良いためかと勘ぐられるが、十二分(じゅうにぶん)にその意味と意義はあると思われる。

この未完の第一〇番については第四章で論じる。また『大地の歌』が交響曲と題されてはいるが事実上は歌曲集だと考えると、第五番以降では第八番が声楽の入った唯一の交響曲と言うことになる。

さらにその声楽部が、八人の独唱者と児童合唱を含む大規模な合唱で、その歌詞と相まってこの交響曲の最大の特色となっている。

さらにこの声楽部は第一部、第二部のほぼ全曲を通して歌われるので、この点でも(ただしここでも『大地の歌』を除いて)、マーラー唯一の交響曲だ。

前述のように、この第八番交響曲はマーラーが聴く(自ら指揮をして)ことのできた自作最後の交響曲ということになる。

基本的なスケッチは一九〇六年の夏にほぼ完成し、いつものように多忙な指揮者としての活動の合間にオーケストレーションを完成させた。

初演は一九一〇年(マーラー五〇歳)九月一二日のことだったが、このわずか八ヶ月後(一九一一年五月一八日)にマーラーはこの世を去ることになる。