【前回記事を読む】小児科医が見た、母親だけが“超能力的”に気づける我が子の異変…それは正確な診断と治療に直結し…

1 子どもは「生きる」プロ 〜小児科医になって子どもから学んだ生きる基本〜

問い5 生命力
「病気になってしまった時、小児と大人ではその病気に向き合って対応する力はどちらが強いですか?」

これは間違いなく子どもだね。小児科医1年目の大学病院研修時代、悪性腫瘍の患児がいて、その子にとって、とても痛いだろうという腰椎穿刺をしなければならない時があった、当然局所麻酔はするんだけどね。

研修医の私は先輩小児科医が穿刺をするのをみていただけだった。ただ担当医がその子どもさんに説明すると、その痛い腰椎穿刺、その後の骨髄内注射を最後まで我慢していたんだ。

これは大人でも相当にきつい事だったはずなのに。目を見張ってしまって、今でも記憶に残っている事だ。

年を取ってしまった自分が病気になって、それにちゃんと向き合えるかというと、どうだろうかなあ、僕は逃げてしまうかもしれないなあ。

今まで僕は小児科医で、散々子どもさんにも肉体的にもきつい思いをさせてきたわけだから、その子どもさんのことを思い出してでも、ちゃんと裁きは受けなければいけないよね。まあ大人の僕の方が情けないんだ。

もう一つは、我が子が3歳の頃、「子どもってすごいなあ」と思う事があった。子どもは皮膚自体が薄いので、よく痒がって掻いてしまうものだ。

「あまり掻かないように!」と注意しても、寝ている時にぼりぼりぼりぼり掻くんだ。でもある時息子が、いつものように寝ながら掻いていたんだけど、突然「はっ!」と言って掻くのをやめてまた寝たんだ。

そしてその後寝ていても、掻くことはしなくなった。「大人の僕よりずっとすごいんだなあ、この子は。親の私よりずっと聡明である」と思って、「こんなふうに生きて行きたいもんだ」と感じた。

我が子は、小学校高学年になると、もう寝ている時に掻きだしてしまい、それでも起きることはなくなってしまった。大人になると私と同じように、にやにやしながら掻いている、面白いものだ。

成長していく上で、人のアドバイスを聞く「素直さ」が大事なことだと、教育者はしばしば言う。「素直さ」は知性の良い表出であると信じるけれど、前述の二つは、「素直さ」というよりも、知性の前の「生命力の強さ」なんじゃないかな、と思っている。

僕は小児科医になりたての頃から子どもさんの持つ生命力の強さについて感じて学んできた。還暦を過ぎてもういろいろ誤魔化してしまうけれども、時々はこれを思い出して、余生を送っていきたい。