第三幕 きづくこと
「着いたぞ坊主。ここだ」
大田さんが僕の肩を揺する。目が覚めると、雨は止んでいた。
「どこなんです? ここ」
「見てわかるだろ。山だよ」
窓の外は明るくなっており、明らかにアスファルトやコンクリートがない。
「いやまぁ、わかりますけど……」
「とっとと降りろ。人を待たせてる」
四駆から降りた僕の目に入ってきたのは、のどかな田園風景の中にポツンと建つ木の柱にトタンを張り合わせただけのこじんまりとした小屋だった。
「ここが……」
唖然とする僕の目の前を風だけが通り抜けていく。すると、明らかにここを根城にしているであろう男の人が顔を出した。
「あなたですか! すみません、ろくに歓迎の用意もできてなくて。古代ギリシヤの時代から賢者というのは経済や文化から離れて己を高めるといいます。日本という国の体制上、放置されていたここは、最高の隠れ家なんです」
つぎはぎのつなぎを着たその人が握手を求めた。
「図像学者の藍原です。よろしくです」
「藍原、俺は炊き出しの方に行ってくる。坊主のこと、頼むぞ」
大田さんは僕の肩を強めに叩くと、小道の方へと進んでいった。
「まずは案内しないとですよね。えぇと、どこから行こうか……」
藍原さんが考えていると、扉の奥から無精ひげの男性と長髪の若者が顔をのぞかせた。
「そいつか? おっちゃんが寄越す新入りってのは」
「こ~れ、いきなりメンバー出揃っちゃった感じっすかね?」
「一宮です。よろしくお願いします」