コギトの先輩には、よくキャンパスで捕まった。

神の存在をどう思う? 神なんて人類の策略みたいなもので、生きがいでも、目的でもない。人間の存在にとって、むしろない方がよっぽど人間は幸せだったろう。信仰心が生き甲斐になるなんて、こんな厄介なことはない。排他的で狂ってしまう麻薬みたいなものだ。

神は理不尽な死を、何の罪もない人々をどれだけ多く宗教のために殺(あや)めたことだろう。キリスト教、イスラム教、色々な宗教がこの世にはあるけど……どれも所詮人間の心の在り方だ。人類への奉仕だとか言うけどね。

なんだか、みんな究極的には、「まやかし」のような気がする。そう、俺は思うんだけどね。ただ唯一の考えとして、世界中の宗教を地理的に、歴史的に集約して、純粋に一つの基本的理論とすると、正しい原理として本当に人間が幸せになれる宗教があるのかもしれない。統一された宗教として、人類に奉仕するそんな宗教があるかもしれない。

何度も聞かされた長い話を集約すると、こんな感じになるのだった。

ある春の、木曜日の午後だった。

キャンパスの片隅には花壇があった。三色スミレやチューリップがいっぱい咲いている。その横に白いベンチがあり、彼女はサンドイッチとコーラを手にして座っていた。

ひろしは胸が高鳴るのを抑えながら、「ここ空いてますか?」と尋ねた。

「あっ、はい……」

彼女は驚いたような目をして、少し身体の位置をずらした。

ぎこちなく座る二人の間を、爽やかな風が吹き抜けていく。

彼女は「杏子」という名だった。話すことがなかったのだろう。はにかみながら、杏(あんず)の花言葉のことを話し始めた。

「包容力」「偽りのない心」「正直」……この時何故か「乙女のはにかみ」は外していたことを、ひろしは知っていた。

 

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