最初に、社長自らの面接を受けた時、僕の履歴書を片手に持ちながら、少し怪訝そうな表情で

「あんた、W大の政経か、せっかく入ったのにもったいない事したなあ、何で卒業しなかったんだ?あれか、やっぱりそれでやめたんか?」

と、老眼鏡を掛けたまま上目遣いに言った後、

「まあいいや、うちは大学なんか全く関係ないからな、そんな事はどうでもいいわ。ところで、あんたうちで幾ら稼ぎたい? うちではやればやるほど、幾らでも稼げる様になっているからな」

と、平然と発する金銭に対するあけすけな言葉使いに、一瞬、僕は妙な戸惑いを覚えたけれども、新聞の求人欄で見た条件が、他のどの会社よりも良さそうだったため、そして、もうじき初めての子どもも生まれようとしていた事もあって、この会社の実態も分からず、つい給料の高さだけに釣られて入社してしまったのである。

朝やたらに早い出社時間と、ピリピリするような朝礼の雰囲気は、予めある程度は予想もし、覚悟もしていた事だったので、初日と二日目はそれなりに緊張したけれど、それほどの苦にはならなかった。

ところが三日目、水曜日が定休日という事であったので、初めて迎えたその日、そんな事とはつゆ知らず、当たり前の様に会社を休んでいた僕の家に、朝いきなり、社長自ら、大声で怒鳴りつける電話が入ったのである。

「お前さん、どういうつもりなんだ。今日は何で店に出てこない? 新人のくせして、なめた真似をするんじゃないぞ。会社を無断で休むとは、一体どういう事だ。誰が休みだなんて言った。ふざけた真似をするんじゃないよ」

と、ものすごい剣幕なのである。

「いや、そんな事聞いていませんでした。今日は定休日で、てっきり休みだと思っていたのですが」

と、慌てて弁解する僕に、今度は電話を替わった営業課長が、さらに畳みかける様に怒鳴りつけてきたのであった。

「バカ野郎、この仕事に、新人社員のくせして休みがあると思っているのか。いいか、今からすぐ出てこい」

たまたまこのやりとりを聞いていた、その頃、ちょうど臨月間近であった妻もびっくりして、

「あなたこの会社、本当に大丈夫な会社なの?」と、心配そうに尋ねるのであった。それから僕は、取るものも取りあえず、慌てて会社に出掛けて行ったのである。

 

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