暫くして、希恵が席についた。希恵はカシス色のドレスに着替えていた。靴とアクセサリーも色を合わせていた。

希恵はショートサイズの煙草に火をつけると、ヨシオに目を合わせないようにして吸った。

学校で見せる希恵の姿とは、一八〇度違う姿にヨシオは驚くとともに、惚れていくのが分かった。

ヨシオにとっては、リングの中で一方的に撃ち込まれて、ガードの隙間からパンチと蹴りが入ってくる。そんな一方的な試合、完敗だった。

「由香です」

希恵の姉も、ほかの客の接待の合間に挨拶してきた。

「ヨシオです」

ヨシオは気のない返事をした。

この日、一時間ほどしてヨシオは店を出た。

「なんで」

希恵は引き留めたが、

「じゃー、またな」と言って、ヨシオはその店を出た。

ヨシオは暫く、部活にはいかなかった。これといって特別な意味もなかったが、希恵の気を引くための行動が少しあることは自分でも理解していた。

俺と付き合うつもりだったら、希恵のほうからくるべきだ。男のプライドだった。

同じ学校だったので、希恵とすれ違うことは多かったが、ヨシオはすべて無視した。希恵の不安な気持ちが見てとれた。

二、三日して、希恵の友人の美羽が廊下で話しかけてきた。

「希恵が無視されて、寂しがってる。話してあげて」

ヨシオは美羽に促されて、希恵が待っていた図書室裏に行った。

ここは、ポプラ並木が多く植えてあり、外から見にくい場所でもあった。

希恵はひときわ大きいポプラの木の前に立っていた。その木にはハート形の飾りがかけてあった。