ここは工藤と愛子が、幼い時から何度も来た教会だ。二人共クリスチャンではないが、広い庭にはいくつか遊具もあった。そして何より日曜のミサの後には、お菓子の入った袋を子供達に分け与えてくれた。それが楽しみで二人はここへ来ていた。

懐かしさに工藤の目頭が熱くなった。だがなぜいま、愛子は教会へ来たのか?

気づけば空は水分を含んだ雲に負け不気味な灰色になっていた。あと五分で狂った波がやってくる。教会の外壁から中庭を除くと、シンボルとなっている樅ノ木のたもとで愛子が何かをしていた。目を凝らしてみればスコップで土を掘っているようだ。

あっ! 胸にナイフを突き立てられたような衝撃が工藤を襲った。封印して消されていた記憶。自分にとっては何でもない幼き頃の一場面が、愛子にとっては永遠だったとでもいうのか。

鼻腔を湿らせた何かが、目からこぼれてくる。

そういうことだったのか、愛子。

6歳の頃だったか。工藤は母親から、使わなくなったボックス製のオルゴールをもらった。しばらくは毎日聴いていたが、そのうちに飽きて愛子へあげた。

すると彼女は、そのオルゴールにお互いの宝物を入れて、教会の樅ノ木の根元に埋めようと言った。

工藤も賛成し二人でその秘め事を行った。すっかり忘れていたが、そこに工藤はおもちゃの指輪を入れた。いつか結婚しようね、という手紙と共に。

幼かった二人は、教会で結婚式を挙げるカップルを幾度か見ていた。ここは結婚式をするところ、そんな意識があったのかもしれない。愛を誓うならこの場所。そう思ってここに愛の誓いを埋めたのだ。

自分と違い愛子はそれをちゃんと覚えていた。二人の思い出が、彼女へ贈った指輪が、結果的に愛子を殺したのか。

次回更新は3月4日(水)、14時の予定です。

 

👉『時空の溶解』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】妻に2週間も触っていない。太ももを触りたいし、キスをしたい。少しはいいかな、と寝ている彼女のスカートを上げて…

【注目記事】「どこにも行ってないよ」とLINEで嘘をつく妻。「やはり何かある…」頭の中は疑惑でいっぱいになり妻の車にGPSを付けてみると…