先生に引率され生徒たちは素直に高台へと避難を始めた。

その時だ。ずっと追っていた愛子の姿を見失う。工藤がずっと悔やみ続けたこと。あの時は、高台に行ってから彼女がいないことに気づいた。同じミスはしない。

工藤は冷静に彼女を探した。人波でごったがえしていたが、先生たちの目を盗んで列を脱する愛子を見つけた。工藤もすばやく列から脱し、愛子の後を追った。

どこかでこれは架空の世界だと理解している。だがこの空気感は、あの大震災の日と何も変わらなかった。心臓がバクバクいっている。かなりのスピードで駆けていく愛子を追うのに必死だった。

たしか町を飲み込む津波は地震発生から30分で到達する。もうこの時点で地震発生から15分が過ぎていた。あと15分。恐らく愛子は家族が心配で戻ったのだろう。でなければ、普段大人しい彼女がルールを破ったことの説明がつかない。

この20年、工藤はそう思っていた。だが実際は愛子の両親も兄弟も別の町に居たり避難所へ居たりで被害は受けていなかった。愛子もそれを知っていたはずなのに、なぜ家に戻ったのかと家族は訝しんでいた。

目の前の愛子が自分の家に駆けこんだ。工藤はそれを数十メートル離れた場所で見ていた。そして心で訴えかける。

今からでも高台へ逃げれば助かる。お願いだから戻ってくれと。

だが家から出てきた彼女は小さなスコップを片手に、学校とは別の方向へ走り出す。

「何してんだよ!」

大津波警報が町中に鳴り響くなか、工藤は独りつぶやくしかなかった。

そして彼女は海の近くにある教会へと辿り着いた。教会の人々はすでに避難を終えたのか誰もいない。