重々しい口調でそう言い置くと、拓善は供の俊開を連れて足早に寺を後にして行きました。刻限はすでに昼を過ぎていました。
宗佐は軽く食事を済ませた後、先ほど拓善から言い渡された一連の行に取り掛かり始めました。
先ず小僧に手を引いてもらいながら、寺から半里ほど歩いたところにある清川渓谷に向かいました。朝からの雨は小やみになっていましたが、長い日もようやく傾き始め、生い茂る木立のために周囲は薄暗く、淡い霧が立ち込めています。
岩だらけの道を行くとやがて、地元の民が薄衣の滝と呼ぶ小さな滝が、二丈ほどの高さの岩棚からしぶきをほとばしらせて流れ落ちています。
宗佐は白衣に着改め、青く澄んだ滝壺にひざ下まで踏み入り、初夏とはいえ身を切るように冷たい水に打たれながら、手を合わせ、声高く般若心経を唱え始めました。
「観自在菩薩(かんじざいぼさつ) 行深般若波羅密多時(ぎょうじんはんにゃはらみつたじ) 照見五蘊皆空(しょうけんごうんかいくう) 度一切苦厄(どいっさいくやく) 舎利子(しゃりし) 色不異空(しきふいくう) 空不異色(くうふいしき) 色即是空(しきそくぜくう) 空即是色(くうそくぜしき)……」
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