「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「二人です。一人は遅れてきます」
「すみません、もう一度お願いします」
「二人です」
有希は来るのだろうか。留置所の中とは違う時間の長さを感じ、不安が増していく。何から話したらいいんだろう。
俺から話しかけるべきなのか。
そもそも有希は謝るつもりで来るのだろうか。
まだ憎んでいたらどうしよう。香原弁護士も来てほしい。
怒涛(どとう)の如く感情があふれ出てくる。絵画と化していた風景に、有希の姿が描かれた瞬間、頭より先に身体が反応した。香原弁護士はいない。心の糸が音を立てて張り、思わず立ち上がった。
「有希。こっちだよ」
やってきた有希に手を振っていた。でも、近づいてくる有希は無表情で、何を考えているのか分からない。
「有希、ほんと久しぶりだね。まず座りなよ。えーと、何飲む?」
明らかに挙動不審だ。改めて思うが、昨日は有希がいなくて本当によかった。こんな感じでは話にならない。でも、今ここに有希がいるということは、大方の話は伝わっているはずである。香原弁護士がいないということは、もっとポジティブに考えてもよいはずだ。
「キミ、誰?」
有希の第一声は全く予測外のものだった。時間を砕くような衝撃と静寂が訪れる。
「え、蒼斗だよ」
俺はこう応えるので精一杯だ。
「蒼斗くん? わたしに何の用?」
俺は過呼吸なのか、無呼吸なのか、苦しくて視界が揺れる。有希はふざけているようには見えない。むしろとても純粋な目をしている。
「有希、聞きたいことがあるんだけど」