さあ進水式。
いよいよ荒川の川面を思いのまま疾走できる。
武司と奥田君は顔を見合わせて喜びを分かち合った。
スターターを引き、エンジンをかける。
徐々にアクセルレバーを倒していくと、エンジン音も高まり振動が伝わってくる。
しかし……、
ボートは一向に動こうとしない。
首を捻りエンジンを止めて調べてみると、スクリューに水草が何重にも絡みついているではないか。
水草を取り除き再びエンジンをかけてみるが、やはり空転するばかりでスクリューは回ってくれない。絡んだ水草のため、ジョイント部分のピンが折れてしまったようだ。
そういえば、平和島でこのボートを買った時、整備士がメンテナンスの話の中でこのピンの注意点の話をしていたような気がした。しかし、その話の主たる聞き手は、当日雇った運送店のドライバーで、武司と奥田君はそんなことよりも乗りたい一心、説明も上の空だった。
結局このボートは一度も武司の欲望を果たせず、ついには母が処分してしまうことになる。買った度胸も、重たいボートを隠したり運んだりした苦労もすべては水の泡だった。
あまりの己の間抜けさに、武司はやり場のない怒りを感じていた。
従業員のため息や、無言の非難にもこらえるしかなかった。
河原から引き返す時間の長かったこと。
往路の何倍もの虚しい時間が武司を襲った。
そもそもライフジャケットも着けず、十五歳の少年が乗ったこともない競艇用ボートに乗ろうとしていたのだ。
「お前のやることは、正気の沙汰とは思えない」
母うめ子の叱責に武司はただうつむくばかりだった。
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