ボートの企ての挫折

「緻密な計画」に武司は自分で満足していた。

ところが千住の家からの電話に中山家は大騒ぎとなる。

「大変だ、二階が落ちそうだ」

一階の天井に重たいボートを吊り下げたために天井が下がってしまい、二階の床がいまにも崩れそうな状況になっていたのだ。

すべてを知った母は気がおかしくなるばかりに武司を叱りつけた。

母親は「ボートを手放せ」と執拗に武司に迫る。

もちろん、簡単にいうことは聞かなかった。

何しろ購入資金の半分以上を奥田君が出しているし、買ってからただの一度も乗ったことがないのだ。

まだ母の怒りが解けないある日。

武司は奥田君と密かに千住の家で待ち合わせた。

住み込みの従業員に手伝ってもらい、ボートの初乗りをするつもりだった。

母親に知られれば、また大騒ぎになることは目に見えている。

しかし、だからと言って断念する武司ではない。

従業員に軽のバンを運転してもらい、船外機とボートの舳先を載せ船体の後ろを四人で抱え上げようやく車に積んで荒川に向かう。

小さなボートだからとたかをくくっていたが、その重さは想像を超えていた。

途中何度も落としかける。

葦をかき分け、腰まで水に浸かり、ようやく水辺にたどり着く。