「お金儲けをできる人じゃないんだから、財産を残そうだなんて考えなくて良かったのにね。最期に着ていた作業着の胸ポケットに宝くじの券が連番で十枚入っていたけど、どうせこれもかすりもしてないのよ」

麻帆がそういいながらくじ券を破こうとしたそのとき、傍らにいたサブちゃんが「待ってください」と急に声を上げた。

「ちょっと見せてください」サブちゃんはそう言って、呆気に取られている麻帆からくじ券を受け取り、じっくりと眺めた。そして、その中から一枚を抜き出した。

「ひょっとしたら、このくじ券は当たっているかもしれません。売り場に確かめに行ったほうがいいですよ」

そう言って、サブちゃんは一枚のくじ券を麻帆に差し出した。

「麻帆さん、サブちゃんは運が強くてね。小島の家で遺品整理をしたとき、高価な時計とその設計図を見つけたんだ。騙されたと思って確認してみるといいですよ。何なら、いまから俺が行きましょうか?」市瀬は言った。

「そんな、悪いわ」麻帆が困ったような表情を浮かべる。

「何、帰り道に宝くじ売り場の前を通るからね」

「そう? それならお願いしましょうかね。もちろん、当たったら全額差し上げますから」

遺品整理が終わると、市瀬はアーケードの宝くじ売り場へ急いだ。顔なじみの女性販売員に声を掛け、「山本の旦那の形見だ」とくじ券の束を渡した。女性はくじ券を機械にかけて当選を確認している。しばらくすると女性が声を潜めて話しかけてきた。

「市瀬さん、一枚当選しています」

「お、三百円の末等かい?」

「違います、高額当選です。三億円が当たったんですよ!」

「おいおい、嘘はいけねえよ」

「これを見てください」

女性から手渡されたレシートを見ると、確かに三億円が当たっている。「換金の期限が迫っているから、早めに銀行に行ってください」と言われた市瀬は、当選したくじ券を受け取り、元来た道を引き返して山本の家に向かった。

 

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