チケット売り場を抜けるといきなりホームになっていて、日本のような改札口がない。他の乗客を見ると、鉄の棒の上の小さな機械にチケットを差し込みガチンと音を立てているので、同じようにした。
これが改札だった。その当時のフランス国鉄は自分で改札するのがルールだった。表示に従い列車に乗り、空いている席に座り、駅に置いてあった時刻表でルーアン着の時刻を確認した。
何しろフランス語のアナウンスは全くわからないから、時刻表記載のルーアン着の時間に止まった駅で降りればよいと考えた。その時、年齢は30歳くらいと当時の私とあまり変わらない、スーツにネクタイ姿の男性が声をかけてきた。
最初は「ムッシュー」と丁寧な語調だったが何を言っているのか理解できず、黙って相手を見ていたら、同じことを何度も言っている。この人がだんだん興奮してきて、どうやらそこをどけ、と言っているようだと感じてきた。
フランスではアジア人に対する偏見がまだあるのかと思ったが、争っても勝ち目はないので席を立った。すると安心したのか彼は「これを見ろ」と席の背についている小さなカードを指さした。
そのカードには「指定席」と書かれていた。その当時、フランス国鉄の車両は日本のように自由席と指定席の車両が分かれていない列車があり、私が座っていたのは彼の指定席であった。
ようやく彼が怒っている理由がわかり「エクスキューゼモア(すみません)」と謝ったら「ドゥリアン(どういたしまして)」と言って不機嫌そうに私が空けた席に座った。これがフランスに着いて初めて通じた現地の人との会話だった。
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