おや、チーグが豆畑(まめばたけ)の前で仁王立(におうだ)ちをしているよ。手には長(なが)い棒(ぼう)を持ってる。チーグがにらんでいる先(さき)には、一羽(いちわ)の子どものカラスが、種をまいたばかりの畝(うね)をちょん、ちょん、ちょんとこっちに向かってくるじゃないか。ケケ……
「ちょっとちょっと、そこのカラス! まいたばかりの種をたべちゃだめ!」
チーグが大声(おおごえ)で言っても子ガラスは聞こえない様子で、まだ、ちょん、ちょん、ちょんと近(ちか)づいてくる。すぐそばの大きな木の上では、二羽(にわ)の親(おや)ガラスがギャアギャアさわいでいる。
チーグは怒(おこ)って棒を両手で持ち上げて、ぐんぐんと近づいていった。それでも子ガラスは飛び立たないで、その場(ば)でピタッと止(と)まってしまった。チーグの姿があんまりおそろしかったんだな、ケケ。その場で固まってしまった、ケケケケ。親ガラスはもう、狂(くる)ったように鳴き叫(さけ)んでいる。
チーグは、もうすぐ棒が届くところまで子ガラスに近づいた。そして棒を振り上げてぐっとにらんだ。ところが子ガラスはちっとも動かない。よく見ると、なんと、立ったまま目をまわしているじゃないか。
「ぷぷぷぷぷ……」チーグはおかしくなってしまい、振り上げた棒をそうっとおろして、ぽこんって、ちょっとだけ子ガラスの頭をさわったよ。
子ガラスはもう完全(かんぜん)に気を失(うしな)って、翼(つばさ)をだらんと下げて、そのまま固まってしまった。頭の毛が一本だけ立ったままになってね。ケケ……
「もう、来ないでね」チーグは少し小さい声で言って、くるっと背中を向けてもとの場所(ばしょ)にもどってきた。振り返(かえ)って見ると、木の上では親ガラスが二羽とも、木から飛び上がったり下(お)りたりしていつまでもギャアギャア鳴いていた。
子ガラスは立ったまんま動かなかった。そうしてしばらくしてからチーグがもう一度見ると、小さな声で「カアー」とひとこえ鳴いたよ。ケケケケ、ケケ……
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