「涼子――」
「思い……出した」
それだけ言うと涼子は手で口を覆った。漏れそうになった悲鳴をどうにか押しとどめているように。
「思い出したって、お前まさか」
「私、コンビニに行って……。その途中に車が……」
俺はどんな言葉を掛けてやれば良いのか分からなかった。たとえ嘘でもそんなことはなかったと否定すべきか、事実を認識させるべきか。だがそうやって迷っている時点で事実だと認めたも同然だ。
涼子は揺れる瞳をこちらに向け、
「死んじゃったの、私?」
と尋ねた。俺は辛うじて首を横に振ったが、下手な痙攣のようだと自分でも思った。
「……ごめんなさい。私、全部分かっちゃった。あなたがどうしてここへ現れたか。何をしようとしてるのか」
その言葉に俺は動揺を隠せなかった。なぜ。なぜだ涼子。どうして悟るんだ。
「全部ってお前……」
「このタバコから想いが流れてきたって言うのかな。だから全部分かるの」
俺は今日ほどこのタバコを恨んだことはなかった。己の身に降りかかったことは因果応報だと割り切ることは出来たが、こればっかりは……。
「あなた、早く帰って」
「な、何を言うんだ。俺はお前に――」
「ダメ。あなただけならまだしも涼ちゃんを巻き込むのは許されないわ」
許されない。許さない、ではなく許されない。その言い回しは俺に気を遣っているのか、涼子。
「だが俺はお前を死なせたくない。涼介だって俺みたいな口うるさい奴と二人で生きていくのは嫌だろう」
「涼ちゃんは面と向かって言わないだけでちゃんとあなたを尊敬してるわよ。照れ隠しでぶっきらぼうな態度を取ってるだけなんだから」
「信じられないな。アイツが俺を尊敬だなんて」
「だからこれからちゃんと二人で向き合って生きて。私が死ぬのはもうしょうがないの。そりゃ、私だって嫌よ? でも世の中には理不尽な別れがあるって震災の時に思い知ったじゃない」
「あの震災と比べるな。全部知ってるってことは、お前がこんな目に遭ったのはアクセルとブレーキを踏み間違えたクソジジイのせいだってことも知ってるんだろ。俺はあのクズと、免許を取り上げなかった家族を同じ目に遭わせたいと思ってるくらいなんだぞ」
「恨んだって仕方ないでしょ。喪われた命は還ってこない。遺された人に出来るのは、それとどう向き合って生きていくか。違う?」
次回更新は2月21日(土)、11時の予定です。
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