夫とヨーロッパ同行の決意
このままずっと素直な日々が送れそうなのに、又もや心の片隅に不安な火種が灯り始めていた。私の前にはいつも何かが立ちはだかる。落ち着きを見せると又次なる課題に見舞われる。それは多分前に進む為の変化の兆しなのであろう。
大決心をしたヨーロッパアンティークの体験も自分がお気に入りとなれば懸命な努力で、わずか四年程の経験の積み重ねで個性派業者といわれる評価を得ていた。
あのH嬢の後を見失わないようにひたすらついて歩いていたのは二~三回であった。ここに至っては年に数回は一人でヨーロッパ往復を繰り返すまでになっていた。
結果このような留守がちの常態化は東京に一人残されている夫にとっては考えてもいなかった不便さで遠方に出かけてしまう妻への不安に見舞われる日々になっていた。
毎日の食事の準備等はもう全くの不得手な夫であった。二週間近くにも及ぶ度重なる留守の不便さに気付いてはいながらも、私は気がかりな気持ちを振り捨てて通い続けていた。
それはヨーロッパの忍耐を伴う厳しさ故、夫を簡単に巻き込んでしまう訳にはいかないという考えが優先していたからだ。自分の都合で選んできてしまっている道。
夫の好みとはいえない事柄の為、同行は望んでいないであろうという思い込みもあった。しかし時間が経つにつれ、決めつけていることに疑問を感じ始めてもいた。
これはきっとベストではない。買付けの土産話を聞いていることよりも苦楽を共にする時間を送ることの方が貴重に思えてきた。私が一人ヨーロッパ買付けを終えて箱崎に戻ると、夫はそれはもう嬉しそうに迎えに来て無事を㐂んでくれた。
元来明るい性格の夫とはいえ年も重ね、リタイヤメントも遠からず一人案じながら東京で帰りを待つ気持ちは推測出来ていた。決断には時間を要したが、やはり二人で一緒の方がきっといい。夫をヨーロッパ同行に誘ってみよう。それはこれまでの私の中には全く無かった選択肢であった。
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