「ほら……ずっとあっちにさ、ピンクの丘、見えるでしょ」
僕は、いつも目をやっていた方を指さした。僕の言葉に誘われるように、彼女も窓の外を見ていた。
「あ、ほんと! ピンクになってる! 気づかなかった!」
「あの風景が好きでさ、何となく、そっちに目がいってるんだよね」
「そうだったんだ……何だか、ごめんね」ちょっと声を落として彼女が言った。
「どうして?」
「だって、私が来る前は、遮るもの、何もなかったんでしょ?」
「……そう言われてみれば……そうだけど」
「ごめんね」
「安藤さんが謝ることじゃないでしょ。今まで自分だって癖って気づかなかったくらいだし」
「うん……」
そう言うと、彼女は、また窓の外へ顔を向けた。暫く窓の外を見ていた彼女が聞いてきた。
「どうしてピンクなの?」
「コスモスのピンク」
「コスモス?」
「あの丘の斜面が、コスモス畑になってるんだよね」
「そうなんだ!」
かなり嬉しそうな声を出した彼女だった。加えて、それほどまでに嬉しそうな顔を見せたのは、たぶん、転校してきてから初めてだったような気がする。
「今度、行く?」
その嬉しそうな表情と声につられて、思わず言ってしまった。思えば、自分から女子を誘ったのは初めてだったかもしれない。特に、自分に変なプライドがあったわけではない。
それまで付き合った子は、全て、相手からの告白だった。ということで、デートのプランも相手の子が考えてくれていたので、それが自然になってしまっていた感じだった。
〝それ〟を言った自分に驚いていた自分がいたことは事実だったけれど、それも、彼女の天真爛漫な言葉で打ち消されたのも事実だった。
「行く行く! いつ?」
「いつって……いつがいい?」
何だか、デートの約束でもしているようだ。デート……といえばデートか……。
一瞬、周りに聞こえているか気になった。しかし、周りも自習時間というのに、かなり賑やかに騒いでいたので、大丈夫そうだった。
僕たちの会話を聞かれてマズイことなど本来はなかったが、あの公園での翌日の騒ぎを思い出すと、何となく気になってしまっていたのだった。
「じゃ、明日!」即答の彼女。
「明日?」
「だって、授業、午前中だけでしょ? だから!」
「いいよ」
試し読み連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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